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録音を聴く

クラシック音楽とジャズとオーディオと歴史映画のブログ [杉本良明]


by yoshisugimoto

山中敬三著作集(SS選書)

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きわめてマニアックな本(ムック)なのだが、なんと今は大阪市立図書館で借りられるのである。新刊で、私が借りた一番手であったようだ。

「真のオーディオ・コニサー」という副題がついているが、異論はない。評論家では菅野さん、瀬川さんというとハイエンド志向で有名だったが、山中さんは輪をかけてハイエンドな方だった。90年代半ばで心不全で早世されたので、収録されている内容は古い。カートリッジ・フォノモーター・テープレコーダーといったあたりの記事は今となってはあまり参考にはならない。

掲載されている山中さんは、多くの写真でタバコを片手にくつろいでおられる。喫煙が早世に関係したのかもしれない。五味さんがそうであったように。

この人は専業評論家ではなく、会社勤めをされていたようで、記事も対談が多く、文章も製品紹介程度の短文しか残されていないようだ。本書の表紙になっている、Patrician600の取材記事で、何でもオールマイティに鳴らすスピーカーはない、将来も出来ないのではないか、と語っておられるのは印象的だった。

「やっぱり、そうなんや・・・」

と意を強くした次第である。現代スピーカーでも同じことは感じるが、Patrician600なら特にそうに違いない。この人が亡くなってすでに20年近く経つが、その間オーディオ技術はゆっくりとではあるが、進歩している。今では我が家のDACとSICMOSアンプで、山中さんが体験していたであろう世界をお手軽に追体験できているのではないかな、と想像している。

以下はPatrician600の紹介記事である。山中さんとしては例外的に、結構長く使っておられたスピーカーだ。
パトリシアン600は、EVならではの、スピーカーづくりの真髄を製品化したモノーラル時代のオールホーン型コーナーシステムである。
 低域はP・クリプシュが発明した独得な構造のコーナーホーン型エンクロージュアによるもので、部屋のコーナーに設置することで、その能力から考えると非常にコンパクトにまとめられた構造に驚かされる。このエンクロージュアには、当時16Ωが標準的だったインピーダンスを、約4Ωという非常に低いものとした18インチ(46cm)後継の18WKが組み合わされた。
 とくに注目したいのは828HFプレッシャーユニットと折り返し型ホーンを組み合わせたミッドバスで、大型化して実用不可能といわれた中低域ホーンを見事にコンパクトにまとめていることだ。詳細な部分は覚えていないがこの中低域部は、前面と背面双方にホーンが取り付けてあり、これひとつで2ウェイ的な働きをしていたようだ。つまりパトリシアン600は、4ウェイ構成プラスαの5ウェイシステムであったのかもしれない。なお、中高域にはT25系ユニットを、高域にはT35系ユニットを搭載している。
 コーナー型エンクロージュアのメリットで非常にコンパクトな外形寸法で優れた低域再生能力を実現した、とはいうものの現実のパトリシアン600は、じつに巨大なシステムである(実測で高さは150cmを超え、幅は約90cm)。しかしそのサイズを意識させぬ軽妙な表現能力の素晴らしさは譬えようのない、オーディオのロマンそのものである。とくに、忘れてならないことは、旧世代超大型スピーカーシステムのなかでも、ホーン型エンクロージュアと軽量高能率ダイアフラム型振動板ならではの、かけがえのない魅力を本機は色濃く備えている。
 スピーカーシステムの夢と理想に、経費、人材、時間という現代の3悪を無視し挑戦し到達しえた、この壮大なプロジェクトの成果は現代の欠陥の裏返しである。

エレクトロボイス, スピーカーシステム, 井上卓也Patrician600
このスピーカーは今となっては実際に聴くのは難しいだろうから、想像するしかない。高能率で音離れが良い反面、ある種のクセも必ずあったのではないかと思う。幅広でコーナー型だから、音像定位もあいまいなのではないか。後日山中さんがS9500にアップデートしているところから、そうした憶測が可能なのである。ヴィンテージ機にあって、クセは長所と表裏一体、使いこなしでカバーできるものではない。JBLの現代テクノロジーに触れ、さすがの山中さんも交換を決断したのだろうと想像する。

DACやアンプの進歩のお陰で、我が家のビクターSX-V7と自作ASWは結構いい線まで肉薄できているかもしれない。ビクターSX-V7は音離れは普通なのだが、ヴィンテージ機のようなクセはない。また現代的なトールボーイで、バッフル幅も狭いので、音像定位も明確である。低音は入っていれば、自作ASWが超低音まで再生する。Patrician600を凌駕するところまでは行かないと思うが、けっこう健闘しているのではないかな、と思っている。
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by yoshisugimoto | 2014-11-14 14:53 | オーディオ | Comments(0)